ピッキング練習機の話

特殊パーツ

最近製作する機会の多いピッキング練習機についての話です。

事の始まりは織原良次さんに頼まれて作った右手練習機オリタネーター(写真左上)です。もう8年も前になります。
既存のPraxax(写真右下)を基に、当時の自分なりのアイデアや嗜好を盛り込んで作りました。無意味な銘木と手の込んだフォルムの、まあ冗談みたいなアイテムです。

流行るようなモノではないですが、半年に1回くらいの頻度でオーダーが来るので、ちょくちょく作ってきました。検索してもらえれば色々出てきます。

しかし、数を作るにつれて幾つかの難点が気になってきました。

まず第一に、作るのにあまりにも手間がかかりすぎること。
作業時間を価格に素直に反映させたら、とても練習機として適切な値段ではなくなります。
ギターペグを使っているのでパーツ代もかかっています。

次に、凝った造形によって練習機としてのコンパクトさが犠牲になっていること。
楽器本体を持ち出せない・取り出せない場でこそ使いたい道具なので、できるだけ小さい方が良いはずです。
ペグもサイズ・重量の面で不利です。

更に、道具としてそもそも不完全です。
ギターペグを使っているので低音弦は巻線をほどかないとペグに通すことができません。ほどよい長さに切って巻線をほどいて張る必要があります。頻繁に弦交換するものではないとはいえ、これは大きな欠点です。
しかもギターペグを詰めて配置しても間隔が20mm強になるので、一般的な19mmピッチ相当にするにはサドルに向かって弦をそこそこ曲げる必要があります。巻く向きを低音弦側と高音弦側で逆にしたりと工夫してもみましたが、エレガントではないです。

そう思っていたところ、すでにオリタネーターをお持ちの方から「よりPraxaxに近いコンパクトなものが欲しい」という相談を受けました。

これはそのときの試作品です。Praxaxの弦の固定・チューニング方法は不明ですが、ダブルボールエンドのような専用弦を使っています。
まずはそれに近いものを作ってみましたが、弦の長さを適切に加工するのが大変な手間です。
しかし、ネジの締め込みで弦の張りを調整する機構には可能性を感じました。

そこで弦の片側を金属板で挟む方法を考えました。
これなら任意の長さで固定できるうえ、弦の加工そのものが不要になります。

そうして完成したものがこちら。

部品構成はこのようになっています。

まずボールエンドにネジを通し、サドルに弦が添えられるくらいまで締めます。

反対側の固定板から飛び出ない程度の長さに弦を切ります。

固定板で弦を挟み、固定。

そこからボールエンドに通しているネジを締め込んでいくことで、弦に張りを与えることができます。
ネジ(穴)に対して張力が横向きに掛かるのは本当はよくないですが、物凄く強く張ろうとしない限り実用には耐えるでしょう。

Praxaxは専用弦が必要で、オリタネーターでは巻線をほどく必要がありましたが、この機構なら普通の弦をそのまま使えます。全体も軽量コンパクトにまとまり、携帯する練習機として使い勝手はより良いのではないでしょうか。

製作も簡単で(これなら作ろうと思えば誰でも作れる)、弦間設定の自由度も高いです。結果的にオリタネーターの難点を全て綺麗に解決できました。

肝心の練習効果ですが、これを使った練習が意味を持つかは人によるし状況によるので私からは何とも言えません。意味を持つ活用方法を考えられるかどうか次第とも言えます。

なにせ実物の楽器とは似て非なる手応えです。弦を適切に振動させる能力を高めるうえでは障害となる可能性すらあります。

エクササイズや準備運動のひとつとして効果的に使うことはできるでしょう。

(あのゲイリーウィリスは、あのどこまで本気でどこまで冗談か分からない名著の中で、スラップの練習にはツーバイフォー材をブッ叩くのが効果的と言っていました。この練習機はツーバイフォーよりは本物の楽器い少しだけ近いです。)

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